汲み取り式トイレは、上下水道が未整備だった時代に普及したトイレです。上下水道の整備が進んでいない地域や古民家などでは現役で活躍しています。
この記事では、汲み取り式トイレの仕組みや種類、メリット・デメリット、水洗化リフォームの方法と費用、さらに補助金制度までをわかりやすく解説します。
汲み取り式トイレとは
汲み取り式トイレは、上下水道とつながっていない独立型のトイレです。汲み取り式トイレの概要や仕組み、種類を詳しく解説します。
上下水道とつながっていないトイレ
汲み取り式トイレは、水道や下水道につながっていない、独立した仕組みのトイレです。排泄物は便器の下にある「便槽(べんそう)」と呼ばれるタンクに直接落としてためます。
排泄物が落ちるときの音から「ぼっとんトイレ」「ぼっとん便所」と呼ぶケースもあります。便槽にたまった排泄物は、専門業者に定期的に汲み取ってもらう必要があります。
1960年代ごろまでは、このタイプが主流でした。現在は水洗化が進んでいますが、水洗トイレの普及率は100%ではなく、一部の家庭や地域では今も汲み取り式トイレが使われています。
汲み取り式トイレの仕組み
汲み取り式トイレは、便器の真下にある便槽に排泄物を直接落としてためる仕組みです。主にコンクリートやFRP(繊維強化プラスチック)製の便槽が、地中に埋め込まれています。
この便槽には、掃除用の口や、バキュームカーのホースを差し込むための吸引口が設けられています。排泄物がたまると、自治体の許可を受けた専門業者が専用の機械を使って吸い上げ、回収します。
汲み取りの頻度は使う人数や回数によって異なりますが、一般的には2〜3ヶ月に1回程度が目安です。
汲み取り式トイレの種類
汲み取り式トイレには、「和式」「洋式」「簡易水洗」の3つのタイプがあります。
和式汲み取り式
和式汲み取り式トイレは陶器製の和式便器が床に設置された、しゃがんで使用するタイプです。便器のすぐ下に便槽があるシンプルな構造で、水洗機能はありません。
洋式汲み取り式
洋式汲み取り式トイレは、洋式便器の下に便槽を埋め込んだトイレです。座って使えるため、和式汲み取り式トイレに比べて腰への負担が少ないのが特長です。臭いを抑えるため、便器と便槽の間にフラッパー弁がついているタイプもあります。
簡易水洗トイレ
簡易水洗トイレは、使用時だけ水が流れる仕組みです。レバーハンドルを引くとフラッパー弁が開き、水とともに排泄物を便槽に送ります。水が流れるため、他の汲み取り式トイレに比べてにおいや汚れを軽減できる点がメリットです。
ただし、水を使用するぶん、他の汲み取り式トイレより便槽が満タンになるスピードが早く、汲み取りの頻度が高くなる傾向があります。
イベント会場や災害時の避難場所など一時的に多くの人が集まる場所や、インフラが整っていない環境で使用されています。
汲み取り式トイレのメリット
汲み取り式トイレには、水や電気を使わないという特性があり、非常時にも強いというメリットがあります。また、構造がシンプルなため、配管詰まりが起こりにくい点もメリットです。
断水時や災害時でも使用できる
汲み取り式トイレは、水や電気を使わないため、停電や断水の影響を受けません。
地震や台風などの災害時にライフラインが停止しても、普段どおりにトイレを使えるのは大きな安心につながります。
また、排水管を使用しないため、地震などで配管が破損し、下水が漏れ出すといった心配もありません。非常時にこそ、その利便性が際立つトイレです。
つまりの心配がない
汲み取り式トイレは、排水管を使わない構造のため、トイレットペーパーや異物によるつまりが起きにくい点もメリットです。
水洗トイレでよくある「流れない」「詰まる」といったトラブルは発生しません。
定期的なメンテナンスは必要ですが、配管清掃や修理といった手間や費用を抑えられるメリットがあります。
汲み取り式トイレのデメリット
汲み取り式トイレには便利な面がある一方で、日常的な使い勝手や衛生面での課題もあります。
臭いや衛生面が気になりやすい
汲み取り式トイレは、排泄物を便槽にためておく仕組みのため、どうしてもにおいが発生します。
とくに気温が高い夏場は、便槽内でにおいがこもりやすく、トイレの中や周辺が不快に感じやすいでしょう。
また、においだけでなく、ハエなどの害虫が発生するおそれもあります。
汲み取り費用や申し込みの手間がかかる
汲み取り式トイレでは、排泄物の処理にかかる費用(し尿処理費用)が定期的に発生します。し尿処理費用は自治体によって異なり、1回あたりおよそ2,000円〜4,000円程度が相場です。
使用する人数や頻度によって異なりますが、一般的には2〜3ヶ月に1回のペースで業者に依頼して汲み取りを行います。
水洗トイレと汲み取り式トイレでは、使用にかかる費用に違いがあります。家族4人で使うときの1ヶ月の使用料の目安は、次のとおりです。
トイレの種類 | 水洗トイレ | 汲み取り式トイレ |
水道代(トイレ使用分) | 約1,300円 | 0円 |
電気代(ウォシュレット) | 約200円 | 0円 |
汲み取り費用(し尿処理費用) | 0円 | 約2,500円 |
合計 | 約1,500円 | 約2,500円 |
水洗トイレの水の使用量は、大で1回約13リットル、小で約8リットルが目安です。1人あたりの1日の使用量は平均で45リットルとされており、水道代は10.8円に相当します。これを4人家族が1カ月(30日間)使うとした場合、水道代はおよそ1,300円になります。
ウォシュレット付き水洗トイレの場合は、電気代も必要です。機種により差はありますが、1カ月あたり約200円が目安です。
一方、汲み取り式は水道代や電気代はかかりませんが、業者または役所に依頼する汲み取り料金がかかります。料金は地域にもよりますが、基本料金と18リットルあたり180円の従量料金が相場(※)です。月に換算すると、平均して2,500円ほどとされています。
なお、汲み取りの際は業者への申し込みと当日の立ち会いが必要です。立ち会いによって汲み取り量を確認します。そのため、早めにスケジュールを調整しておくと安心です。
(※)簡易水栓式の場合は水洗に使った水も汲み取り対象なので料金設定が異なる。3,000~4,000円/月が目安。
汲み取り式トイレから水洗トイレにリフォームできる?
汲み取り式トイレから水洗トイレへ変更する場合、リフォームの可否や方法は、住んでいる地域の下水道の整備状況によって異なります。
下水道が整備されていれば可能
水洗トイレの排水処理方法には、「下水道直結型」「浄化槽設置型」「簡易水洗型」の3種類があります。
排水処理方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
下水道直結型 | 下水道に直接つなぐ |
|
下水道が未整備だと設置不可 |
浄化槽設置型 | 浄化槽で汚水を処理する | 下水道の設備が整っていない場所で使用可能 |
|
簡易水洗型 | 便槽に水で流して弁で密閉する | 設置が簡単 | 汲み取り・におい対策が必要 |
もしお住まいの地域に下水道が整備されていれば、汲み取り式トイレから水洗トイレ(下水道直結型)にリフォームすることが可能です。この場合、汚物は下水道を通じて処理場へ流されるため、便槽は不要になります。
自分の住む地域が下水道に対応しているかどうかは、自治体や上下水道局に確認することで調べられます。
一方、下水道が整備されていない地域では、浄化槽を新たに設ける「浄化槽設置型」や、既存の便槽を使って設備を整える「簡易水洗型」の水洗トイレが選択肢となります。
浄化槽設置型の水洗トイレは、排泄物を浄化槽で処理して排水する仕組みで、汲み取り式よりも衛生的です。ただし、地中に浄化槽を埋設する大がかりな工事が必要になるため、リフォーム費用は高めになります。
簡易水洗型は、汲み取り式トイレの便槽をそのまま利用し、便器と便槽の間に弁を設けてにおいを軽減する構造です。水で洗浄できるため使用感は向上しますが、便槽は引き続き使うため、汲み取り作業は必要になります。
汲み取り式トイレの使用継続が法律で禁止されているケースに注意
地域で下水道が整備されると、汲み取り式トイレをそのまま使い続けることが法律で制限されることがあります。
下水道法第11条の3によって、下水道が使用可能になった場合は、各家庭で排水設備を設け、下水道へ接続する義務が発生します。
具体的には、下水道が整備された日から3年以内に、汲み取り式から水洗トイレへの切り替えが求められます。
すでに浄化槽を使用している場合でも同様で、浄化槽から下水道への切り替えが必要です。
水洗化リフォームの費用目安
汲み取り式トイレを水洗トイレにリフォームする際の費用は、排水処理方法によって大きく異なります。
以下は、トイレの種類ごとのリフォーム費用の目安です。
排水処理方法 | リフォームの価格相場 |
下水道直結型 | 60〜100万円程度 |
浄化槽設置型 | 100〜200万円程度 |
簡易水洗 | 20〜60万円程度 |
価格に幅があるのは、トイレの機種や性能、工事の規模に左右されるためです。多機能な最新機種を選択すると、旧モデルの製品よりも高額になる傾向があります。
工事の規模が大きいケースは、床や壁の部分解体・補修が必要な場合です。特に、簡易水洗トイレから下水道直結型あるいは浄化槽設置型への移行する場合、費用が高くなる傾向にあります。
製品価格だけでなく、工事費用や工期も含めてリフォームを検討しましょう。なお、下水道が整備されている地域では、下水道直結型へのリフォームが一般的です。
水洗化リフォームで活用できる補助金・融資制度
水洗トイレへのリフォームには一定の費用がかかるため、補助金や融資制度を活用するのがおすすめです。
地域や条件によって使える制度は異なりますが、以下のような例があります。
- 介護保険法に基づく住宅改修費の支給(厚生労働省)
- 水洗便所改造資金貸付制度/設置費助成制度(さいたま市)
- 水洗便所改造資金融資あっせん及び利子補給制度(静岡市) など
これらの制度を活用することで、リフォームの負担を軽減できます。お住まいの自治体が実施している制度を事前に確認し、条件や申請方法をしっかり調べておきましょう。
まとめ
汲み取り式トイレは、断水時にも使えるなどのメリットがある一方で、においや衛生面、定期的な汲み取り費用など、日常生活における負担も少なくありません。
水洗トイレへのリフォームは、下水道の整備状況によって選択肢が変わります。下水道直結型、浄化槽設置型、簡易水洗型それぞれの特徴や費用を理解し、適切な方法を選ぶことが大切です。
また、自治体によっては補助金や融資制度を利用できるケースもあるため、事前に情報を集め、計画的に進めましょう。