トイレのリフォームや空間演出を考える際、「ハイタンク式トイレ」という言葉を目にしたことはありませんか?かつて多くの家庭で使われていたこのトイレは、天井近くに設置されたタンクから水を一気に流す構造で、今でもレトロな雰囲気を演出したい人に選ばれています。
本記事では、ハイタンク式トイレの仕組みや種類、便器のすぐ後ろにタンクがあるロータンク式との違い、メリット・デメリット、さらにはどんな人に向いているかまで、わかりやすく解説します。
目次
ハイタンク式トイレとは?基本的な仕組み
ハイタンク式トイレとは、水をためるタンクを天井近くの高い場所に設置し、その高さを利用して水を勢いよく流す仕組みのトイレです。
高低差によって強い水圧がかかるため、使う水の量に対してしっかりと汚れを流せます。水をムダにせず効率よく洗浄できるのがメリットです。
また、タンクが設置スペースを取らないため、狭い空間を有効活用したいケースにも適しています。
ハイタンク式トイレの歴史
ハイタンク式トイレは、戦前から昭和50年代半ばごろまで、一般家庭をはじめ学校や公共施設などでも広く使われていました。当時は水道の水圧が今ほど高くなかったため、高い位置から水を流すことで水圧を確保するハイタンク式が合理的な構造だったのです。
タンクの素材としては、主に陶器製が使われており、見た目にも重厚感がありました。また、戦時中の物資不足の時代には、木製のタンクに銅板を貼った簡易的な仕様のものも登場しました。これは、限られた資材を有効に活用するための工夫の一つです。
しかし、ロータンク式や一体型便器などの、より一層利便性の高いトイレの登場により、ハイタンク式トイレは次第に姿を消していきました。
現代でも愛用されているのは、昔ながらの雰囲気を演出したいカフェや飲食店、レトロなデザインを好む住宅などです。インテリアの一部として選ばれています。
ハイタンク式トイレは今でも取り付けできる?現代での導入事情
ハイタンク式トイレは、現在でも設置・使用が可能です。
大手メーカーでは、ハイタンク製品が一部ラインナップされています。また、アンティーク調のトイレに特化した輸入住宅用設備メーカーや専門ショップでも取り扱いがあります。
設置には天井の高さと給排水の配管スペースが必要になりますが、新築・リノベーションどちらでも施工は可能です。
ただし、通常のロータンク式と比べて施工に手間がかかるため、工事費用は高くなる可能性があります。特にリフォームの場合は、既存配管の変更や壁の補強が必要なこともあるため、専門業者への事前相談が必須です。
ハイタンク式トイレは6種類
ハイタンク式トイレは小便器タイプと大便器タイプに分かれます。そのなかでも、洗浄方式の違いで、さらに3つの種類に分かれるため、計6種類が存在します。
小便器3種類
小便器タイプの洗浄方式は次の3種類です。
洗浄方式 | 特徴 |
---|---|
タイマー式 | 一定の時間間隔で洗浄する |
落し込み式 | タンクに水がたまると洗浄する |
人数カウント式 | 利用者の人数をセンサーでカウントし、設定回数に達すると洗浄する |
小便器タイプでは、利用者のレバーやハンドルの操作が不要な自動洗浄タイプが一般的です。
大便器3種類
大便器タイプの洗浄方式は次の3種類です。
洗浄方式 | 特徴 |
---|---|
手引きサイホン式 | タンクから下がる紐やチェーンを引くと洗浄する |
電磁サイホン式 | スイッチ操作によって洗浄する |
シスタンバルブ式 | レバー操作により洗浄する |
大便器タイプでは、利用者が自ら操作して洗浄するタイプが一般的です。
最もよく使われているのが手引きサイホン式で、紐やチェーンを引くだけで高所のタンクから水が流れ出します。強い水圧で便器を洗浄できるのが特徴です。
ハイタンク式トイレとロータンク式トイレの違い
ロータンク式は、便器のすぐ後ろにタンクが取り付けられたタイプです。ハイタンク式トイレとロータンク式トイレの違いを詳しく解説します。
タイプ | ハイタンク式トイレ | ロータンク式トイレ |
---|---|---|
|
|
|
タンクの設置場所 | 天井付近 | 便器のすぐ後ろ |
水圧・洗浄力 | 高水圧で勢いよく洗浄できる | 水圧は控えめ。ただし、最近は高性能化が進む |
デザイン性・設置スペース | レトロなデザイン。床まわりがすっきりする | コンパクトでスタイリッシュなデザインが多い |
音 | やや大きめ | 比較的静か |
タンクの設置場所の違い
ハイタンク式は、タンクが天井付近に取り付けられており、便器までパイプを通して水を流します。
一方、ロータンク式はタンクが便器のすぐ後ろに設置されています。
水圧と洗浄力の違い
ハイタンク式は高い位置から水を落とすため水圧が強く、勢いのある洗浄が可能です。
これに対してロータンク式は、水の落差が小さい分、水の勢いはやや控えめになります。
ただし、最近では技術が進化しており、ロータンク式でも少ない水量でしっかりと汚れを流せる洗浄機能が採用されているため、日常的な使用においては大きな差を感じにくくなっています。
デザイン性・設置スペースの違い
ロータンク式は、タンクが便器のすぐ後ろにあり、全体がコンパクトにまとまっているのが特徴です。スタイリッシュなデザインも多く、一般家庭やマンションなどで広く使われています。
ハイタンク式は天井近くにタンクを設置するため、床まわりがすっきりして掃除がしやすいというメリットがあります。クラシカルでレトロなデザインが魅力で、アンティーク調の空間やおしゃれな店舗などにぴったりです。
音の違い
ハイタンク式は水が一気に落ちる構造のため、流す音がやや大きめになる傾向があります。静音性を重視する場合は、ロータンク式の方が適していると言えるでしょう。
ハイタンク式トイレのメリット
ハイタンク式トイレのメリットとしては、昔ながらのレトロなデザインを楽しめる点や、タンクの設置場所に柔軟性がある点が挙げられます。
レトロなデザイン
ハイタンク式トイレの大きな魅力のひとつが、レトロでクラシックなデザインです。
昔ながらの構造を活かした見た目は、現代のシンプルなトイレにはない独特の存在感があります。特に、タンクから便器へとつながる長いパイプや、手引きチェーンなどのディテールが、懐かしさと趣を感じさせます。
タイル張りの壁や木製の建材と組み合わせることで、カフェやアンティーク調の住宅にぴったりな、味わい深いトイレ空間を演出できます。
設置場所の自由度
ハイタンク式トイレは、タンクを便器のすぐ上に置く必要がありません。パイプを使って水を流す仕組みのため、タンクの設置場所を柔軟に調整できます。
このため、トイレの広さや形に合わせて設置しやすく、限られたスペースや変わったレイアウトの空間でも対応しやすいのが特徴です。設計の自由度が高く、デザインの幅も広がります。
ハイタンク式トイレのデメリット
ハイタンク式トイレには魅力的な特徴がありますが、注意すべきポイントも存在します。
設置の手間や費用
天井付近にタンクを取り付けるため、施工に時間と費用がかかることがあります。特に既存のトイレからのリフォームでは、配管や壁の補強が必要になることもあり、ロータンク式よりもコストがかさむ傾向があります。
タンクまでの高さによる点検のしづらさ
タンクが高所にあるため、不具合が起きた場合の点検や修理には脚立などが必要です。メンテナンス性という点では、手の届く位置にあるロータンク式に比べて扱いにくさがあります。
ハイタンク式トイレはどんな人におすすめ?
ハイタンク式トイレには、独特な構造ならではの長所と短所があります。ここでは、おすすめの人・ケースを詳しく紹介します。
店舗・カフェなど演出重視の空間に
おしゃれな内装や雰囲気づくりを重視する店舗では、ハイタンク式トイレがインテリアの一部として活躍します。
クラシックホテル風、ヴィンテージ風などの世界観に合うため、特にカフェ、美容室、バーなどにおすすめです。
レトロ・クラシックな内装にこだわる方に
昭和レトロやヨーロピアン調のクラシックなデザインが好きな方には、ハイタンク式トイレはぴったりです。
アンティーク家具やタイルと合わせることで、統一感のある空間がつくれます。
まとめ
ハイタンク式トイレは、天井付近にタンクを設置し、そこから水を一気に落とすことで高い洗浄力を発揮する構造が特徴です。
特に、レトロでクラシックなデザインを好む方や、おしゃれな空間づくりをしたい店舗などに適しており、現代でも根強い人気があります。また、床まわりがすっきりするため掃除がしやすく、狭い空間にも導入しやすいという利点もあります。
一方で、天井近くにタンクを設置する必要があるため施工の手間や費用がかかり、点検や修理の際には高所での作業が必要になるといったデメリットもあります。さらに、水を一気に流す構造上、流す音がやや大きくなる点にも注意が必要です。
機能性や好みに合わせて、自分に合ったトイレスタイルを見つけることが大切です。