トイレの便器に水がたまっていない、レバーを回しても水が流れないといった症状に戸惑った経験はありませんか?これは給水が上手くできていない状態を示していますが、給水に不具合が生じる原因はさまざまです。
本記事では、トイレに水がたまらない主な原因とその対処法を、便器の水とタンクの水に分けて解説します。原因別の対処法に加え、改善しない場合の修理費用の目安や、日常的に取り組める予防策も紹介しています。トイレの不具合に備えるための参考としてご活用ください。
トイレのタンクに水がたまらない原因と対処法

まずは、タンクに水がたまらない原因と対処法を解説します。タンクの構造や関係する部品の名称も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
止水栓の閉まり

止水栓(しすいせん)はタンク横の壁や床面に取り付けられており、給水菅でタンクとつながっています。給水量を調整する蛇口のようなもので、閉める方向に回すと給水量が低下し、開く方向に回すと給水量が増える仕組みです。
トイレの設置時は適切な開閉具合に設定されていますが、何らかの理由で閉まる方向に回っている、あるいは設置時よりも水道の水圧が下がっていると水がたまりづらくなります。工事や清掃のタイミングで閉めたことがなければ、後者の可能性が有力です。
トイレの設置時は水道の水圧が高く、止水栓を全開にすると給水量が多すぎるというケースでは、止水栓を閉めて給水量を調整しています。この設定の場合、水道の水圧が下がると給水量が低下します。
止水栓の開閉状態の確認手順
止水栓による給水量の調整は、次の手順でおこないましょう。
- タンクの蓋を開けて水位を確認
- 止水栓を開く方向に少しだけ回す
- タンク内の水位を確認
- 開閉を調整
なお、止水栓にはハンドルタイプとネジタイプがありますが、多くのトイレはネジタイプです。マイナスドライバーで開閉できます。基本的には反時計回りが開く側です。
タンク内の水位を確認しながら徐々に開くことで、適切な水位を確保しやすくなります。最初から全開にすると給水が多くなり水漏れすることもあるため、注意しましょう。
トイレの止水栓は次の記事で詳しく解説しています。

フィルターの詰まり

水道水には微細な砂やサビ、ゴミなどが含まれており、それらがタンク内に流れ込むのを防ぐ目的で、止水栓とタンクの接続部に小さなフィルターが設けられています。このフィルターに異物が詰まると、水の通り道が狭くなり、タンクへの給水が著しく遅れる、または止まることがあります。
なお、フィルターの有無や構造は製品により異なるため、取扱説明書を確認しましょう。
フィルターの掃除手順
TOTO「ピュアレストQR」を例にフィルターの清掃手順を紹介します。
- 止水栓を時計回りに閉める
- ホース接続部のフィルターを外す
- フィルターを流水で丁寧に洗う
- フィルターを元に戻す
- 止水栓を開けて、給水状態を確認する
清掃時にフィルターや接続部から水が漏れる場合があるため、給水を止めてから作業しましょう。このときに、止水栓を回した回数をメモしておいてください。作業前にタンク下へタオルを敷くか、洗面器などを準備すると安心です。
清掃後は閉めた回数と同じ回数で止水栓を開きます。その上でタンク内の水位を確認し、必要な給水量が確保されていれば作業完了です。
浮き球(浮玉)やボールタップの不具合

タンク内にも給水量を調整する部品、「浮き球」や「ボールタップ」があります。これらの劣化や位置のズレなどの不具合があると、給水量が低下します。
ボールタップは給水管から水を取り込む装置で、その内部のバルブは浮き球の上下運動によって開閉します。水位が下がると浮き球が沈み、バルブが開いて給水が始まり、水位が一定に達すると浮き球が上がり、バルブが閉じて給水が止まる仕組みです。
浮き球が引っかかって動かない、内部に水が入って沈んでいる場合は、給水がうまく行われません。また、ボールタップ本体の故障でも、給水が始まらない、あるいは止まらないといった不具合が生じます。
浮き球とボールタップの不具合を見分ける方法
以下の手順で、どちらに原因があるかを確認します。
- タンクのフタを開ける
- 浮き球がスムーズに上下するか確認する
- 浮き球を軽く押し下げて給水音がするか確認する
給水音がすればボールタップは正常に機能しており、浮き球に問題がある可能性が高くなります。逆に音がしなければ、ボールタップ本体の不具合が疑われます。
いずれかに異常が見つかった場合は、部品を交換して改善できるか確認しましょう。
ダイヤフラムの劣化

ダイヤフラムは、ボールタップ内部にあるゴム製の弁です。水圧を調整し、給水と止水を切り替える役割を担っています。この部品が劣化すると、タンクに水がたまらない、あるいは給水が止まらないといった不具合が発生します。
劣化の主な原因は、長期間の使用によるゴムの硬化や、水質による変質です。状態が悪化すると、ボールタップが正しく動作せず、トイレの機能に支障をきたす可能性があります。
ダイヤフラムの交換手順
ダイヤフラムが劣化しているときは、以下の手順で交換します。
- 止水栓を閉め、レバーを回してタンク内の水を排出する
- タンクのフタを外す
- カバーと浮き球を取り外す
- ナット、古いダイヤフラムを取り外す
- 新しいダイヤフラムを取り付ける
- 浮き球、カバー、ナットを元に戻す
- タンクのフタを閉める
すべてを元に戻したら、止水栓を開けて水を流し、正常に給水と止水が行われているか確認してください。水漏れや異音がないかも忘れずにチェックしましょう。
オーバーフロー管の破損・詰まり

オーバーフロー管は、タンクの中央部に立てられた細長い筒状の部品です。トイレタンク内の水位が異常に上がったときに、水があふれるのを防ぐための排水経路として機能します。
このオーバーフロー管にひび割れや破損があると、水が常に便器側へ流れ続け、タンクに水がたまらなくなります。オーバーフロー管を新しいものに交換すれば改善できます。
しかし、タンクを取り外さなければ交換できないため、プロ以外が作業するのはおすすめできません。
陶器製のタンクは重く運びづらいだけでなく、割れやすいため、落下や接触による破損の危険があります。また、タンクを元の位置に戻す際に締め付けが不十分であれば水漏れの原因となり、強く締めすぎると破損につながる恐れがあります。
破損させるとタンクやトイレそのものを交換しなければなりません。結果的に費用負担が増えるため、専門業者に相談することをおすすめします。
フロートバルブの劣化

フロートバルブは、トイレタンクの底にあるゴム製の弁です。排水口を開閉する役割を担います。
レバーを回すと、チェーンに連動してこのバルブが持ち上がり、水が便器に流れ出ます。水が流れ終わるとバルブが自重で閉まり、再びタンクに給水される仕組みです。
フロートバルブが経年劣化によって変形や硬化を起こすと、排水口をしっかりと塞げなくなります。その結果、タンク内の水が便器へと流れ続け、水位が一定まで上がらず、水がたまらない状態になります。
とくにバルブを触ってみて「手が黒くなる」「ボロボロしている」場合は、ゴムの劣化が進んでいるサインです。
フロートバルブの交換手順
フロートバルブの劣化が水漏れの原因と考えられる場合は、以下の手順で交換します。
- 止水栓を閉め、レバーを回してタンク内の水を排出する
- タンクのフタを外す
- レバーに接続されているチェーンを外す
- フロートバルブをオーバーフロー管から取り外す
- 新しいフロートバルブをオーバーフロー管に取り付ける
- チェーンをレバーに接続する
- タンクのフタを戻す
- 止水栓を開け、水が正常にたまるかを確認する
フロートバルブの交換時はトイレのメーカーや品番を確認し、対応する品を選ぶようにしてください。交換後は水がきちんと止まるか、便器への漏水がないかも必ずチェックしましょう。
レバーハンドルの破損や動作不良

レバーハンドルは、トイレの水を流すために操作する部品です。タンク底にあるフロートバルブと連動して、排水口をを開閉します。
そのため、レバーが正常に動かないとフロートバルブが閉じず、タンク内の水が便器へ流れ続ける状態となり、給水されても水がたまりません。
レバーが戻らなかったり、動きが固い場合は、内部の金属部品やチェーンの引っかかり、軸のゆるみなどが原因です。
レバーハンドルの交換手順
レバーに破損や動作不良がある場合は交換が必要です。手順は次のとおりです。
- 止水栓を閉め、レバーを回してタンク内の水を排出する
- タンクのフタを外し、レバーにつながるチェーンを取り外す
- レバー軸のナットを緩め、レバーを取り外す
- 新しいレバーを差し込み、ナットで固定する
- チェーンを接続し、レバーの動作を確認する
交換前に必ず型番や形状を確認し、適合する製品を選びましょう。
断水・水道管の凍結

トイレタンクに水がたまらない原因として、給水自体が止まっているケースもあります。代表的なのは「断水」や「水道管の凍結」です。
断水は、地域の水道工事、災害、設備の不具合などが原因で発生します。急に水が出なくなったときは、まずトイレ以外の蛇口で水が出るかを確認します。複数の場所で水が出ないときは、自治体や水道局の公式サイトで断水情報を調べましょう。
寒冷地では冬季に配管凍結しやすくなります。凍結が疑われる場合は、配管にタオルを巻き、40℃以下のぬるま湯をゆっくりとかけて溶かします。熱湯は配管の破裂につながるため避けてください。
便器に水がたまらない原因と対処法

便器に水がたまらない場合、トイレタンクとは異なる原因が関係している可能性があります。ここからはその原因と対処法を解説します。
排水管の詰まり

便器に水がたまらない原因の一つが、排水管の詰まりです。排水管に異物や汚れが溜まると、水がスムーズに流れず、逆流が起きたり、便器内の水が一緒に引き込まれてしまうことがあります。このような状態になると、便器内の水位が安定せず、常に水が少ない状態になります。
対処するには、まずラバーカップで詰まりを除去してください。改善しない場合は、排水管の奥に原因がある可能性が高いため、専門業者へ洗浄や調査を依頼しましょう。
補助水管のトラブル

タンク内に水はたまっているのに便器へ流れない場合は、補助水管の異常が考えられます。補助水管は手洗い付きタンクや洗浄路を経由し、便器内に水を誘導する部品です。外れや破損があると給水が止まり、水がたまらなくなります。
まずタンクのふたを外し、補助水管の接続状態を確認します。外れている場合は元の位置に戻します。破損していれば、同じ型の部品に交換します。取り付け後はレバーを操作し、水が正しく便器に流れるかを確かめましょう。
タンクからの給水不足

洗浄後に便器に水がたまらない場合は、タンクからの給水量が不足している可能性があります。
フロートバルブの閉まりが不完全だったり、浮き球・ボールタップ・ダイヤフラムなどの給水装置に不具合があると、水量が足りず水がたまりません。
トイレタンクに水がたまらない原因と対処法は、前述の「トイレのタンクに水がたまらない原因と対処法」を参考にしてください。
封水の蒸発

長期間使用していないトイレでは、便器内の封水が自然に蒸発し、底に水がなくなることがあります。封水が無くなると下水管との遮断層が失われ、ニオイや害虫が侵入する可能性があります。
この場合は、バケツ1杯分の水を便器に注ぎ、封水を補充します。その後は、定期的に少量の水を流して封水を維持します。特に別荘や空き家では、月に一度便器に水を流す「通水」を習慣にするとよいでしょう。
誘引現象による封水切れ

封水が突然なくなった場合は、誘引現象が原因となっていることがあります。これは、近くのトイレや浴室で同時に排水したときに生じる負圧によって、便器内の水が吸い出される現象です。
排水管や通気管の構造に不具合があると発生しやすくなります。封水を補充すれば一時的には改善しますが、根本的に解決するには排気設備の点検・改善が必要です。再発を防ぐため、水道工事の専門業者への相談をおすすめします。
電気系統の異常(タンクレストイレの場合)
タンクレストイレでは、電気を利用して洗浄バルブやセンサーが作動しています。そのため、電源が入っていない、内部のセンサーや電磁弁に不具合が生じていると、水が流れず、タンクに水がたまりません。
停電していないにもかかわらず操作に反応しない場合は、電源の断線、基板の故障、電磁弁の動作不良などが考えられます。こうした電気系統の不具合は、内部構造が複雑で、無理に分解すると感電やさらなる故障を招く恐れがあります。 メーカーや専門業者に点検・修理を依頼しましょう。
修理業者に依頼する際の費用相場
トイレの水がたまらない、流れないといった症状にはさまざまな原因があり、修理費用も症状や作業内容によって大きく異なります。
部品ごとの修理・交換にかかる一般的な費用の目安は次のとおりです。
| 修理項目 | 費用(目安) |
|---|---|
| 止水栓 の調整・開閉不良 | ¥3,000~¥5,000 |
| フィルターの清掃・交換 | ¥4,000~¥8,000 |
| 浮き球(浮玉)の調整・交換 | ¥5,000~¥8,000 |
| ボールタップの交換 | ¥8,000~¥15,000 |
| ダイヤフラムの交換 | ¥8,000~¥10,000 |
| オーバーフロー管の破損・交換 | ¥10,000~¥18,000 |
| フロートバルブ(ゴム弁)の交換 | ¥6,000~¥12,000 |
| レバーハンドルの交換 | ¥4,000~¥7,000 |
| 給水管の凍結や詰まりの解消 | ¥8,000~¥20,000 |
止水栓や浮き球、パッキンなどの基本的な調整・部品交換は1万円以内で済むことが多く、比較的安価です。タンク脱着や高圧洗浄が必要な場合は、5万円〜10万円以上かかるケースもあります。
トイレの水トラブルを防ぐ予防策

ここでは、タンクや便器の不調を事前に防ぐための予防策を解説します。
定期的な清掃とメンテナンス
トイレタンク内の部品は、長期間使用していると汚れや水垢、ゴミがたまりやすくなります。ボールタップや浮き球、フィルターなどの部品に汚れが付着すると、給水不良や水漏れの原因となります。
清掃は3カ月に1回を目安に行いましょう。方法は以下のとおりです。
- タンクのフタを開ける
- 中の部品に異常がないか目視で確認する
- 中性洗剤を使い、ブラシや歯ブラシで部品をこする
- フタやタンクの内壁も丁寧に清掃する
- 最後に水をかけて洗い流す
止水栓内にあるフィルターも定期的に取り外して水洗いしましょう。
異音や水位の変化に早く気づく
普段とのわずかな違いに気づくことも大切です。たとえば、「水が止まらない」「流したあとにタンクに水がたまらない」「便器内の水位が極端に低い」といった異常は、いずれもトラブルの予兆です。
日常的にタンクや便器の動作音・水位をチェックする習慣をつけることで、異常にもすぐに対応でき、深刻なトラブルの発生を防げる可能性があります。
まとめ
トイレに水がたまらない原因はさまざまですが、こうした不具合は、日々の観察とメンテナンスによって予防できるケースもあります。
異音、水位の低下、水の流れが悪いといった小さなサインを見逃さず、早めに点検や清掃を行いましょう。それでも改善しない場合や、部品の交換が必要なときは、無理に自己修理せず、専門の業者に相談するのが安心です。

